古石 貴裕

分子シミュレーションで
“誰も見たことのない光景” へ

  • 古石 貴裕
  • KOISHI Takahiro
  • 工学部 教授(分子シミュレーション)

Profile

新潟県出身。1994年、新潟大学理学部物理学科卒業。1996年、新潟大学大学院理学研究科物理学専攻課程修了。1999年、新潟大学大学院自然科学研究科情報理工学専攻博士後期課程修了、国立研究開発法人理化学研究所研究員などを経て、2007年福井大学大学院工学研究科物理工学専攻准教授。2024年より現職。
研究者詳細ページ

マクロな物理現象
コンピューターでミクロに再現

 例えば、水滴を板の上に落とすとどうなるか?水の動きを観察するのが主な目的なら、実験するのがいいでしょう。でも、その先の現象をミクロな視点で探究する場合、水が何らかの物質を含んでいたり、板が水をはじく性質(疎水性)を持っていたりといったさまざまな条件を分子レベルで考えることとなり、単なる実験では済みません。このようなテーマに、個々の分子の性質、相互作用や環境を設定しコンピューターで分子ひとつひとつの動きを再現することで迫っていく「分子シミュレーション」が、私の研究です。
 分子は非常に小さく、わずかな水でさえ膨大な分子で構成されています。だから分子すべての動きを物理法則に従って計算するのは不可能。研究では、実際より少ない数の分子のモデルを立ててシミュレーションするものの、コンピューターの処理速度の向上とともにより多くの分子でリアルさを追究、という方向に進んでいます。数年前までは6000個の分子でしたが、最近では500万個のシミュレーションで水滴が落ちた瞬間の飛び散る様子が再現できるようになりました。その映像はミクロな分子の動きが見えながら、マクロなレベルで水の飛び散るさままで映し出され、誰も見たことのない光景が広がっていました。今後は、国立研究開発法人理化学研究所にある世界トップクラスのスーパーコンピューター「富岳」を使い、分子数を1億個まで増やし、より現実に近づけていきたいです。
 

水滴の衝突シミュレーション

「理論」「実験」に並ぶ、物理学の柱に

 なぜ水分子を扱うのか。水は身近でどこにでもあり、応用が利くからです。例えば疎水性の問題。ハスの葉には水をはじく性質がありますが、分子シミュレーションを行うと、葉の表面の凸凹した多階層構造によって凸凹部分に空気が含まれるため、水と葉自体は面ではなく点で接触しているから、と説明できます。この原理は、建物の外壁やご飯粒がくっつかないしゃもじなど身近な応用例があります。
 コンピューターの性能は、日進月歩で飛躍的に向上しています。これまで理論と実験が主だった物理学においても、今後はコンピューターシミュレーションが大きな地位を占めるようになるでしょう。

It's My Favorite!

山歩きが好きです。山頂で眼下に雲がはりだしてくる光景はなかなか見られず、分子シミュレーションの世界と似ているかな!?